ベイビー

こうきくと陳腐だけどさ俺ずっと、餓鬼のままで在たいんだ。なんていうかさあいつらの頭ん中って常に空中飛んでんだろ、あのクレイジーさっていうかさ、ワオ!って感じだよな、全てハッピーでさ厭世主義もアパートの隣で爆笑してるようなさ、ぐるぐるぐるぐるって飛んでるだろ。落ち込んだりとか、したくねえよ、ヴィヴィッドみたいなカラーフルみたいなさ、全てのものが踊ってるんだ。そういつだったかさ忘れたけど俺が餓鬼のころな亀な亀、飼ってたんだ。そいつさこんな小っちぇんだよいやもっとだったな、とにかくさ兄貴がどっかで拾ってきたっつってな、これまた兄貴が小さい虫かごみたいなのも手に持っててな、そういうと台所まで行って虫かごに水張ったりなんかしてさ、で最初さ俺はそいつが亀だって判らなかった、小さすぎたんだ。頭とか足とか引っ込めてたんだろうな、普通こう手足をわさわさって動かしたりするだろ、そんなの全くなかったからな、そいつが亀だって言われてさはじめて亀だって判った訳でそれからさ、不思議だよなそれまで変な石つぶとか黒い豆とか何かの部品とか分からなかったその亀がどんなちゃらけた形とか状況で虫かごに収まってても、もう亀にしか見えないんだ。頭だけ出してる亀、左前足だけ出てる亀、ひっくり返って尻尾だけ出てる亀、ってそれだけ。焦ったよ、小さい森みたいなのあるだろ、ジオラマみたいなさ、それ虫かごに入れたりなんかしてな。とにかくそいつはもうどんな風にその形をみせようが典型的な亀なんだ、惜しくてもそいつはその範囲内の転倒さ、分かるだろ、悲しかったな、本当に、もう戻れないんだ、俺が飛んでたのは空中じゃなくて海中だったってわけだ、そう思うと実に湖、川、プールかもしれないってな、瞬間恐ろしくてな、震え上がったよ。そいつの甲羅にペンキで塗ってやったりしたこともあったな、ピンクとかイエローとかな、でも、同んじだったな、これが大人になるってことなんだって思ったよ、言ってること分かるか、俺たちを取り囲むもののほとんどはそういう風に堕とされたんだって気が付いたのはその時だったな。

そいつは波に揉まれて孤島に打ち上げられてそれから亀になり死んだようだった、あらゆる可能性は煙のように巻かれその音やそれ以外の色やその形、未来の時間や過去さえも失っていた、ただ顔だけ切り取った写真が無に漂うように事実だけを色濃く俺たちの脳に強く焼き付けていた。